ミューザの日2023
こどものためのウェルカム・コンサート

客席に設置されたボディソニックの座布団と字幕用タブレット、ヘッドホンの様子
リアルタイム字幕の様子

今号からの新連載となる本コーナーでは、社会と芸術文化をつなぐ様々な試みを取り上げていきます。今回はインクルーシブアプローチとして、7月1日の「ミューザの日」にミューザ川崎シンフォニーホールで行われた「鑑賞サポート」を紹介します。

取材・文 : 米津いつか 写真 : 大野隆介

「ミューザの日(7月1日)」は、2004年に誕生したミューザ川崎シンフォニーホールの開館記念日かつ川崎市の市制記念日です。市内の学校もお休みになるため「こどものためのウェルカム・コンサート」が毎年開かれています。子どもたちはもちろん、2017年より毎年この日に聴覚障がいのある方を対象とした鑑賞サポートのある公演が開催されています。

舞台に近い客席の一区画が鑑賞サポートに対応するエリアに設定され、聞こえのレベルによって申込時に「ボディソニック(体感音響システム)」の「振動ザブトン」「ヘッドホン」「磁気誘導ループ」から好みのものを選べるほか、「リアルタイム字幕」も設置されています。また、手話通訳の方が1名、エリアと舞台の間にスタンバイ。

「ボディソニック」はパイオニア株式会社が開発した、振動で音を伝える座布団型やポーチ型の機器と、ヘッドホンや磁気誘導ループを組み合わせて音を体感するシステムです。この日、川崎市在住のろう者の大山聡子さんが、「ボディソニック」の「振動ザブトン」を選んで、コンサートを鑑賞しました。いくつかの席には、聞こえづらい方が演奏の音量を自身で調整して聞けるヘッドホンも用意されていました。また、2席に1つの間隔で「リアルタイム字幕」を表示するタブレットが座席に取り付けられていました。

大山さんはクラシックのコンサートを鑑賞するのはこの日が初めて。コンサートの曲目は、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」序曲と「ヴァイオリン協奏曲 ホ短調」です。

鑑賞後に大山さんは、「ボディソニックの座布団の振動が演者の動きとつながっているとわかり興味深かったです。ただ、振動がない時は『音はどこにいったんだろう?』と物足りなさのようなものも正直感じました。そういう時は、ヴァイオリンなど各奏者の動きを目で追って、イメージを自分の頭の中でつくって楽しんでいました」と、振動から伝わるものも手助けになり得ると感じたようです。ボディソニックは、低音域は振動がはっきり伝わるのですが、高音域は振動が弱く、わかりづらい時もあります。

手話で鑑賞後の感想を語る大山聡子さん

また、リアルタイム字幕よりも手話通訳を見ることが多く、同時性という点では手話通訳の方が優っていたと言います。「字幕を見てから演者を見るとタイムラグが出て目も疲れてしまうため、どちらか一つと言われたら手話通訳を選ぶけれど、両方あると選択できてよりよいです」。さらには、「タブレットに楽譜が映って視覚でもわかったらより音楽を楽しめるかもしれません」というアイデアも出てきました。

今回の公演は、演奏の合間に「協奏曲」についての説明など、クラシックコンサートデビューをする子どもたちにもわかりやすい寸劇仕立てでの解説があり、「聞こえる・聞こえないに関係なく一緒に楽しむことができた」と大山さん。「理想を言えば、ふと手に取ったチラシのすべての公演に今日のようなサポートがあることです。今日の体験を通して音楽が身近に感じられました」と、今後への期待も語ってくださいました。

ロビーにはあらゆる人が空間を認識できるようホールの「触る模型」も 写真:平舘 平

ミューザの日2023こどものためのウェルカム・コンサート


会場 | ミューザ川崎シンフォニーホール
日程 | 2023年7月1日
主催 | 川崎市、ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市文化財団グループ)
公式サイト

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