平原慎太郎(ダンサー/振付家)

特別な体験を日々の生活のなかに
劇場のあり方を考え続けたい

音楽、言葉、美術、建築など多方面に関心を広げ、新しい表現を追求し続けるダンサーの平原慎太郎さん。
2022年にオペラ『浜辺のアインシュタイン』(以下『浜辺』)*1の新演出・振付を手がけ、好評を博しました。
県民ホールでの制作や劇場への思いをお話しいただきました。

取材・文 : 編集部 写真 : 加藤 甫

―『浜辺』を演出されて2年ほどが経ちました。県民ホールでの制作はいかがでしたか ?

県民ホールの舞台は横長で間口が広いのが特徴です。それって日本の絵巻物と似ているなと。絵巻物は、巻物をときながらストーリーが進んでいくものだけれど、もう一つ面白いのが、全部開き切ったら古い時間と新しい時間が一緒に描かれていること。空間デザインの木津潤平さんとこんな風に話しをしたことが、なるべく横向きに進んでいくような最初の演出のヒントになりました。この舞台では、様々な分野で活躍する人たちと一緒につくることができ、僕が考える劇場像のようなものを実現できたと思います。どの層の観客にも何かフィットできる要素があって、新たな何かに出会える。そういう構図をスタッフさんたちがどんどん受け入れてくれました。

―OrganWorksの公演では、劇場空間への工夫もされていますね。

今年の新作公演では終演後にロビーをひらき、出演者や観客同士が公演について話し合える場づくりを試みました。劇場を誰もがワクワクする場所にしたいんです。劇場についてよく考えるようになったのは、スペインで市民の生活に根づいた公立劇場を見たことが大きいです。特別な体験が日々の生活のなかに溶け込んでいて、市民とプロが触れ合える機会もある。自分が関わる公演もそういうものにしたいと思いました。今はSNSなどでダンスや音楽に容易に触れられますが、知ることはできても体感できる場所は多くない。そこに劇場の存在意義があると思います。自分がただつくりたいものを見せるのではなく、劇場という場をいかに理解して向き合えるか、常にお題を突きつけられていると思っています。

—次に挑戦したいことはありますか ?

またオペラをやりたいです。『浜辺』で自分の幅が広がったし、僕が専門とするコンテンポラリーダンスは、異なるジャンルの機能と機能、そして人と人を結ぶ架け橋になれるものだと感じました。そこで育った自分だからこそ、総合芸術のディレクションに挑戦し続けたいという思いがあります。

*1 神奈川県民ホール開館50周年記念オペラシリーズVol.1 ロバート・ウィルソン/フィリップ・グラス『浜辺のアインシュタイン』 〈一部の繰り返しを省略したオリジナルバージョン/新制作/歌詞原語・台詞日本語上演〉(2022年)

平原慎太郎 Shintaro Hirahara

クラシックバレエ、ヒップホップのキャリアを経てコンテンポラリーダンスの専門家としてダンサー、振付家、ステージコンポーザー、作家など多分野で活動。シアターカンパニー「OrganWorks」主宰。自作品発表のほかに前川知大などの演劇作品にステージングとして参加。またDancing Glass(イタリア)での作品発表など海外での活動も多い。

オフィシャルサイト

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