県民ホールはポピュラーミュージック関係者の間では「カナケン」の愛称で知られます。この50年間に多彩かつ多数のアーティストたちが舞台を彩ってきました。
FMヨコハマで『MORNING STEPS』『PRIME TIME』のDJを歴任し、長くこの地域における音楽シーンを見守り、紹介役を担ってきた栗原治久さんにインタビュー。放送メディアという立場からみた神奈川のポピュラー音楽の隆盛ぶり、「カナケン」の舞台に立つことの意味など、お話しいただきました。
取材・文 : 猪上杉子
写真 : 大野隆介
栗原さんは神奈川という土地は「ポップスの宝庫」と話します。
「900万人以上という巨大な人口をもつ神奈川県は、その豊かな土壌のおかげで、多彩かつ豊富なポピュラー音楽を生みだしてきました。クレイジーケンバンド、ゆず、矢沢永吉、柳ジョージ、秦基博、瑛人などに代表される“横浜サウンド”、加山雄三、南佳孝、TUBE、キマグレンなどの顔ぶれの“湘南サウンド”、それに加えて“県央サウンド”もありますよ——いきものがかりなどがその代表です。こんなに豊かに音楽を育んできた土壌は、ほかにあるでしょうか? 紹介しがいのある土地柄なんです」
たしかに「カナケン」の舞台出演者にも大勢の神奈川出身のアーティストがにぎやかに名を連ねています。この舞台を「ホーム」と呼んで全国ツアーのフィナーレをここで開催することにしているアーティストもいるのだとか。
また、邦楽だけではなく、海外アーティストの音楽の聖地でもあった横浜・山下町界隈。
「そもそも横浜は洋楽文化発祥の地ですからね。東京にこんなに近いのに、海外アーティストたちがこぞってカナケンでコンサートを開いていますよね。そしてテレビ神奈川(TVK)にも洋楽番組が数多くあって、僕もその司会を務めて洋楽も紹介してきました。横浜は、そしてカナケンは洋楽文化もまたけん引してきましたよね」
洋楽・邦楽問わず数多くのポピュラー音楽を紹介し続けた横浜の放送メディアとコンサートホール。では、両者はどのような関係にあったのでしょう。
「かつてラジオは新しい音楽を真っ先に紹介する役目を担っていました。アーティストが楽曲リリースをするたびに、レコード会社の宣伝担当者は新人のラジオ・プロモーションを大事に考えて売り込んできたものでした。それは、ラジオは感情・情緒のメディアなので、DJが『いい曲だよ』『このアーティストが最近のお気に入り』と話すと、リスナーの心に響くという効果があったからなのです。近年はその役割はSNSやユーチューバーに譲った感がありますが、今でもラジオという媒体を大切にしているアーティストがたくさんいる理由は、ラジオが声を通しての一対一のパーソナルな情緒で結ばれた関係性を大事にしているからだと思うんです。
そして『カナケン』はアーティストが目標とする『メインステージ』という大きな役割を果たしてきました。さらに、メディアで知ったファンが『ついに生で会える』場所でもあるわけなんです。それはアーティストにとっても同じで、現代では貴重な、直接の体験と交流ができる場所。『カナケン』はそんな最高の瞬間を迎えるメインステージとして音楽シーンを活気づけ続けてきたんですよね、50年にもわたって。敬意を感じます ! 」
栗原治久 くりはら・はるひさ
1992年にFMヨコハマのDJコンテストで優勝しラジオ業界へ。2001年からはFMヨコハマの『MORNING STEPS』を、2017年から『PRIME TIME』を担当。ラジオDJ、クラブDJ、司会など広く活躍する。