小ホールではたくさんのオルガンの演奏会が開かれ、お昼休みの無料コンサート、体験型の公演などをいち早く実施してきました。音響効果の良いオープン・ステージ形式を活かした室内楽や、現代音楽の企画も数多く開催。また音楽にとどまらず、「県民ホール寄席」として落語も長年上演されてきました。
小ホールの代表的なプログラムの紹介と、県民ホール オルガン・アドバイザーの中田恵子さんからのコメントをお届けします。
世代を超えて愛されてきた⾳⾊。
県⺠ホールのパイプオルガンは国内公⽴ホールで随⼀の歴史があります
オルガン・アドバイザーからのことば
神奈川県民ホール50周年。ホール設立と同時に導入されたクライス社製オルガンも50歳を迎えます。50年前の日本にはオルガン付きのコンサートホールはほとんどなく、公立ホールのオルガン第1号として誕生しました。パイオニアとして日本のオルガン界を牽引してきたオルガン、また小ホールという親密な空間に鎮座するオルガン。私は神奈川県民ホールのオルガン・アドバイザーに就任し今年で4年目ですが、これらのオルガンの特徴を活かして何か面白いことはできないか、信頼できる事業課のスタッフと共に試行錯誤の4年間でした。なかでも印象深いのが、2022年度より始めたアドバイザー企画の〈オルガンavec〉シリーズです。
“avec”はフランス語で「〜と一緒に」の意味で、オルガンと「何か」を組み合わせておきる化学反応を楽しもう、という企画です。第一弾では、〈オルガン avec バロック・アンサンブル〉と題し、J.S.バッハの時代に教会のオルガン・バルコニーで演奏されていた室内楽をイメージし、オルガン・コンチェルトを中心にしたプログラムをお届けしました。舞台の広さがちょうどオルガン・バルコニーくらいなので、お客さまには当時の様子を覗いていただく感覚で楽しんでいただけたと思います。名手揃いの弦楽アンサンブルにオルガンの音が溶け合い、芳醇な響きにホールが満たされたこと、今も忘れられません。
第二弾は〈オルガン avec バレエ〉。音楽がBGMに留まらない、視覚的にもバレエと相互に交わる舞台をつくってみたいと考えました。私もバレエの衣装を着てみたり、ペダルソロの超絶技巧とバレエダンサーの足の動きがリンクするような場面を入れたり、それらの試みは遠藤康行さんによる素晴らしい振付・演出のおかげで想像以上の効果につながり、バレエとオルガンが一体感をもつ新しい舞台を生みだすことができました。
新しい挑戦には常に緊張が伴いますが、得られるものも大きく、県民ホールでの経験一つひとつが私にとって宝物です。休館後もこのオルガンが、次の50年に向けて歩み続けてくれることを願っています。
中田恵子 なかた・けいこ
オルガニスト。2021年より神奈川県民ホール オルガン・アドバイザー。アンドレ・ マルシャル国際オルガンコンクール優勝。キングインターナショナルより、CD「Joy of Bach」「Pray with Bach」(第15回CDショップ大賞2023クラシック賞を受賞)をリリース。
県民ホールのパイプオルガン
1975年1月の開館に合わせドイツのヨハネス・クライス社により設置。三段の鍵盤と2024本のパイプ、音色を調整する30種のストップを備え、バロックから現代まで、幅広いオルガン音楽に対応しています。当初は舞台右側にありましたが、1990年に音響環境改善工事とともに舞台正面に移設され、433席の客席から演奏の様子がより見やすくなりました。オルガンの仕組みを紹介する企画などを通して、子どもから大人まで幅広い世代に親しまれています。
オルガン
国内公立ホールで初めて設置された歴史あるパイプオルガン。少しでも多くの人に親しんでもらうために企画された無料の「昼休みパイプオルガン演奏会」は、のちに「プロムナード・コンサート」となり、400回以上開催されてきました。
気軽に楽しめるコンサートだけでなく、本格的な演奏が聴ける「オルガン リサイタル」も継続的に開催しています。
現代音楽・室内楽
室内楽の魅力を、広く県民に届ける役割も担ってきた小ホール。現代音楽を扱うシリーズは、「音楽の現在」や「アート・コンプレックス」といったフレッシュな企画が評判を呼び、かたちを変えながら、観客にも親しまれてきました。クラシックの名曲もたびたび演奏され、チェンバロの魅力を紹介する企画も定期的に開催しています。