現在の関心は
“曲想”を意識すること
ラッパーとして表現を常に更新するように創作に向き合い、
音楽ジャンルにとどまらないフィールドで活躍する環ROYさん。
ダンサーとの共演や演劇の舞台でも、傑出した存在感で注目を集めています。
現在の創作における関心について、お話を聞きました。
取材・文 : 編集部 写真 : 後藤武浩
─アルバム『Anyways』から3年ほど経ちました。現在はどんな状況ですか?
疫病以降、自宅をスタジオ化して録音までできるので、日常的に音楽をつくっている状態です。これまで他者に依頼していたバックトラックを、2020年以降、自分でつくるようになりました。結果、言葉からサウンドへ比重が移っていると感じます。言葉に対する姿勢が変化しているのは、ライフステージとの関係が深いように思います。子どもが生まれたり、親が死んだりする年齢ですので。
―環さんはラップのリリックで、どんなことを言葉にしようとされていますか?
『なぎ』(2017年)という作品までは、コンセプトやメッセージが他者に伝わること、共感してもらうことに関心を寄せていました。『Anyways』以降、それがかなり薄れてきています。現在の創作における関心は、自分の内側にあるものを他者に理解してもらおうと整理をしていくような行為にはなくて。“曲想”ってあるじゃないですか。曲のムード。自分がいいと思える曲想をつくる、見つける、みたいなことに関心があります。ファッションとか、抽象画に対する消費の仕方のような解釈が近いかもしれません。言葉の扱い方もこれまでとかなり変わってきていると感じます。
—声について考えることはありますか?
あんまりないですね。人それぞれっすよね、くらい。声って、顔と同じで身体の一部だから社会的なものですよね。社会は人間同士のコミュニケーションなので、人間の耳は「人の声」という音に対して、フォーカスが合うようにできているよな、とかは考えたことがあります。ボーカルがあるとそれが主と感じやすい理由というか。
—ご自身の身体性についてはどう考えていますか?
あまり意識したことがなくて。2010年代ぐらいからの人たちは実感がないかもしれないけど、ラッパーは言葉が面白くてラップがうまいのはもちろんだけど、「動きがかっこいいやつが偉い」っていう評価軸がもっとずっと強かった。テクノロジーが今より発展してないから身体性が重視されていたのかも。そういう少し昔のヒップホップに薫陶(くんとう)を受け参入しているので、ただそこからの影響って感じです。
環ROY(たまき・ろい)
1981年、宮城県生まれ。
主にラップを用いた音楽作品の制作を行う。
これまでに6枚の音楽アルバムを発表、国内外の様々な音楽祭に出演。
そのほか、パフォーマンスやインスタレーション、劇伴音楽、広告音楽、絵本などを制作。
ミュージックビデオ「ことの次第」が第21回文化庁メディア芸術祭にて審査委員会推薦作品へ入選。
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