1.『未練の幽霊と怪物—「挫波」「敦賀」—』
岡田利規インタビュー

本コーナーでは、公演の延期を余儀なくされた演出家や、地域に根ざした番組を制作するテレビ局、国際的にも注目される展覧会を実施する組織など、演劇や、音楽、美術、エンターテインメント、そして教育、と幅広い分野の方々から取り組みを聞きました。どんな困難と向かい合い、歩みを止めなかったのか。神奈川県内での5つの現場の声をお届けします。



VOICE 1

岡田利規

夢幻能(※1)の構造を借り、ザハ・ハディド(※2)をシテに描く『挫波』と、高速増殖原型炉「もんじゅ」をめぐる『敦賀』の2作で構成される音楽劇『未練の幽霊と怪物―「挫波」「敦賀」―』。当初、2020年6月に予定されていた公演は新型コロナの影響により延期を前提とした中止となりました。その後、リモートで行われた稽古の成果が『「未練の幽霊と怪物」の上演の幽霊』として6月末にオンラインで上演され、7月に出版された戯曲は第72回読売文学賞(戯曲・シナリオ賞)と第25回鶴屋南北戯曲賞を受賞。1年を経た2021年6月にようやく劇場での上演が実現します。リモートでの稽古とオンライン上演、そしてあらためての劇場公演を通して考えたことを、作・演出の岡田利規さんに聞きました。



聞き手・文 : 山﨑健太

—公演中止が決まった時、何を考えましたか?

中止は延期を前提としたものだったので、それならクリエイションを進めておきたいとまずは思いました。延期ということはより時間をかけられるということでもあるので。それで、リモートで稽古をしました。クリエイションの前半、コンセプトや方法論を試したり共有したりという段階については、オンラインでも十分にできることがあるというのが、やってみての実感です。

劇場で上演された 『未練の幽霊と怪物ー「挫波」「敦賀」ー』(2021年) 写真 : 高野ユリカ

―オンラインでの上演についてはいかがでしたか?

必要に迫られてオンラインで上演するための形式を考えるということそれ自体は楽しくもありましたが、できることにはやはり限界がある。一番大きいのはやる側のモチベーションです。『「未練の幽霊と怪物」の上演の幽霊』では、テーブルの上に小さいパネルを置いて、それに出演者の映像をプロジェクションするというかたちで上演を行いました。オンライン上演でも「舞台」は必要だと思ってそういう形式にしたんですけど、でもそれはやはり同じ空間にいるのとは違う。共演者が同じ舞台上にいて、生で演奏のバイブレーションを感じて、何より、同じ空間に観客がいることで到達できる地点があるということをあらためて感じました。

※1

能は、現実の世界に生きる人々のみが登場し時間の経過とともに進行する「現在能」と、霊的な存在が主人公(シテ)となり、現実と異世界、過去と現在を行き来しながら物語が進む「夢幻能」に大きく分けられる。

※2

イラク出身の建築家(1950-2016年)。2004年、建築界のノーベル賞とも称されるプリツカー賞を女性で初受賞。2012年新国立競技場(東京)のコンペで設計者として選ばれ脚光を浴びながらも、のちにその採用を白紙撤回され、それからほどなく没した。

『未練の幽霊と怪物—「挫波」「敦賀」—』公式サイト

海外公演のための出張中にオンラインでインタビューを受ける岡田利規さん

演劇作家・小説家・チェルフィッチュ主宰

岡田利規[おかだ・としき]


1973年横浜生まれ、熊本在住。従来の演劇の概念を覆すとみなされ国内外で注目される。2020年ミュンヘン・カンマーシュピーレのレパートリー作品『The Vacuum Cleaner』がドイツの演劇祭Theatertreffen(テアタートレッフェン)の“注目すべき10作品”に選出。

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