本コーナーでは、当財団が運営する文化施設(県民ホール・KAAT・音楽堂)の主催公演をケーススタディとして、広場としての文化施設について考えます。また神奈川県が主催し、当財団が企画製作を担う「共生共創事業」、さらには紅葉ケ丘エリアを中心とした文化施設同士が連携する取り組み「横浜・紅葉ケ丘まいらん」の事例もあわせてご紹介します。
- 広場としての文化施設とは? -3つの事例から―
- 1.神奈川県立音楽堂『みんなー!たのしい音楽始めるよ、あっつまれー!』大友良英インタビュー
- 2.神奈川県民ホール『オープンシアター2021』音楽・美術でめぐる世界の旅
- 3.KAAT神奈川芸術劇場「KAATフレンドシッププログラム」
- 4.共生共創事業
- 5.横浜・紅葉ケ丘まいらん
CASE STUDY 1
神奈川県立音楽堂
2021年「神奈川県指定重要文化財」に指定された、前川國男の設計による県立音楽堂。響きのよい“木のホール”として親しまれています。そんな由緒ある場が音楽家・大友良英さんの手によって、“みんなが集まり自由に楽しむホール”に! 2021年7月に開催したコンサートについて大友さんに聞きました。
子どもと大人の音楽堂〈子ども編〉大友良英スペシャルビッグバンド 初登場!
『みんなー!たのしい音楽始めるよ、あっつまれー!』
日程 | 2021年7月30日
会場 | 神奈川県立音楽堂
主催 | 神奈川県立音楽堂
公式サイト
—0歳から入場でき、出入り自由で会場も明るいまま。なかなか体験する機会のないコンサートです。
演奏する音楽や、バンドメンバーのカラフルな服装、客席への声がけなど、あらゆる細部で「みんないていい」というサインを出すようにしました。人のふるまいは場所に規定されます。音楽堂のようなコンサートホールでは雰囲気づくりが大切。ざわざわしていたり、きっちりしなくていい感じをあえてつくりました。子どもがミュージシャンに質問するコーナーがあったり、数名に舞台に上がって指揮をしてもらったりして。
—新型コロナ第5波が来る直前の開催になりました。
たくさんの子どもをステージに上げたり、僕らが客席に入っていったり、コロナがなければもっと観客との距離を縮めたかった。でもその場に応じてできることをやるだけなので、「これができなかった」とは思っていません。
—共生社会と音楽について、お考えを聞かせてください。
共生社会の前提となるのが多様性です。「共生」といっても、制服のように全員が同じものを志向するケースもある。そうではなく、多様な言語や文化がともにある状態が本質だと思います。音楽は、言葉が通じなくても拍子などで遊べるし、そもそも誰かとアンサンブルを組むのが基本です。異なる文化をもつ人同士が一緒に何かをするのに、音楽は向いているんじゃないかな。
—大友良英スペシャルビッグバンドのメンバーにも多様性がありますね。
クラシック、ジャズ、ポップスなど幅広いジャンルの男女が集まっています。異なるジャンルのミュージシャン同士が一緒にバンドをすることは、大きな挑戦になる。おまけに子どもが指揮をしたりして(笑)。「やり慣れたことをやらない」ためにはどうしたらいいか、考え続けているバンドですね。僕の役目は、わざと混乱を招くことかも。答えではなく、問いを用意する。どう応えてもらえるかはわからないけれど、それがきっと面白いものになるだろうと信じてやっています。
聞き手・文 : 編集部
大友良英 おおとも・よしひで
1959年生まれ。映画やテレビの音楽の作曲に多く携わる。大友良英スペシャルビッグバンドは、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』のサウンドトラックを演奏したメンバーによるグループ。バンドが手がけた楽曲はNHK大河ドラマ『いだてん』のテーマ曲など多数。