それぞれの真実に寄り添うこと ―青木 彬(インディペンデント・キュレーター)

最近“事実”と“真実”の違いについて考えるきっかけとなる作品がありました。

一つは私がディレクターを務める「ファンタジア!ファンタジア!—生き方がかたちになったまち—」でのことです。2020年にアーティスト集団のオル太を招聘し、墨田区の歴史にまつわるリサーチをもとに映像インスタレーションを発表しました。題材となったのは、関東大震災時の朝鮮人虐殺や、隅田川流域での皮革産業など。さらにアーティストたちは街中の飲み屋で出会った地元住民の生々しい話まで、様々な「語り」を紡いでいきました。

また、2019年にキュレーションした『逡巡のための風景』において八幡亜樹が発表した《△》は、レビー小体型認知症の女性が見てしまう幻視の子どもについての語りから始まるものでした。幻視の子どもに握るおにぎりから、物語は児童養護施設、農家へと転々と流転していきます。

これらの作品で描かれていることは、厳密な調査に基づく歴史でも、客観的に整合性が取れる経験でもありません。しかし、客観的な事実でなくとも、当事者にとっての代えがたい真実があるのではないでしょうか。人は客観的な事実のみの世界を生きられるわけではありません。歴史の中の個々人の葛藤にも、認知症当事者が見ている景色にも、自分という存在を肯定するために必要な真実が存在するのかもしれません。しかし、そんな真実も時として独りよがりになったり、他者との間にズレが生じるものです。そうした一人ひとりの真実に耳を傾ける寛容性を生む技術が、アートにはあるのではないでしょうか。

事実だけを頼りにしていると、目の前の人にとっての真実にまで想像を膨らますことができなくなってしまいます。それぞれの真実と辛抱強く向き合い対話を続けることが、これからの共生社会に求められるのではないでしょうか。

青木 彬[あおき・あきら]


1989年生まれ。東京都出身。アートを「よりよく生きるための術」と捉え、アーティストや企業、自治体と協同して様々なアートプロジェクトを企画している。主な活動に「黄金町バザール2017」アシスタントキュレーター、『素が出るワークショップ』(学芸出版)編著。

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