3.ヨコハマトリエンナーレ2020

 本コーナーでは、公演の延期を余儀なくされた演出家や、地域に根ざした番組を制作するテレビ局、国際的にも注目される展覧会を実施する組織など、演劇や、音楽、美術、エンターテインメント、そして教育、と幅広い分野の方々から取り組みを聞きました。どんな困難と向かい合い、歩みを止めなかったのか。神奈川県内での5つの現場の声をお届けします。



VOICE 3

ヨコハマトリエンナーレ2020

新型コロナの感染拡大でヴェネチア・ビエンナーレをはじめ、世界の国際展が延期や中止を余儀なくされるなか、2020年7月から開催されたヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」。インド出身のラクス・メディア・コレクティヴ(1)をアーティスティック・ディレクターに迎え、世界各地から69組のアーティストが参加しました。コロナ禍でどう展覧会を開催するのか世界中が手探りの状況で、日時指定の事前予約制などをいち早く取り入れた現場では、どのような取り組みがなされていたのでしょうか。2020年4月に横浜美術館館長・横浜トリエンナーレ組織委員会副委員長(現・総合ディレクター)に就任した蔵屋美香(くらやみか)さんに聞きました。



聞き手・文 : 編集部

─海外からディレクターやアーティストも来日できないなか、どのように展覧会をつくり上げていったのでしょうか。

2020年5月に開催を決めた時、横浜市の方針が揺るがなかったのは大きかったです。施工や展示作業が密にならないように開幕を2週間延期し、スマホやPCを手にオンラインでディレクターやアーティストとつないで準備を進めました。彼らの一部はコロナ禍前に一度は会場に足を運んで空間を把握していたので、「あと何センチ右に」といった綿密な調整ができました。また、体験型の作品をどうするかは全体のコンセプトに関わる大きな課題でした。最終的には、一部の作品を予約制にし、都度消毒をすることで、アートにおける「触る作品」の価値を示すことができたと思います。

ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より
ニック・ケイヴ《回転する森》2016年(2020年再制作) ©Nick Cave
写真 : 大塚敬太 写真提供 : 横浜トリエンナーレ組織委員会

─ラクスが掲げた「独学」「発光」「友情」「ケア」「毒」というキーワードも、コロナ禍に重なる部分がありますね。

「毒」との共生など、コロナ禍前にはわかりづらかったものが、今や誰にでも理解できてしまう。展覧会が開催できたという点でも、アートが追いかけてきたテーマが現実と重なったという点でも奇跡的でした。物事を考える感度が高まっている時に作品を見る経験を多くの方にしてもらえたことには、大きな意義があったと思います。

オンラインで海外のアーティストとつなぎ展示作業を進める様子
写真 : 大塚敬太 写真提供 : 横浜トリエンナーレ組織委員会

※1

インド・ニューデリー生まれのジーベシュ・バグチ、モニカ・ナルラ、シュッダブラタ・セーングプタの3名により、1992年に結成されたアーティスト集団。横浜トリエンナーレで初の外国人によるアーティスティック・ディレクター。

ヨコハマトリエンナーレ2020
「AFTERGLOW-光の破片をつかまえる」

2001年から3年に一度行われている現代アートの国際展。7回目となった2020年は、横浜美術館とプロット48をメイン会場に開催(7月17日〜10月11日)。展覧会と並行した「エピソード」の動画配信やバーチャルツアーなど、オンラインで鑑賞できるコンテンツも多く提供した。

次 ▶︎ 4.神奈川フィルハーモニー管弦楽団

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