本コーナーでは、公演の延期を余儀なくされた演出家や、地域に根ざした番組を制作するテレビ局、国際的にも注目される展覧会を実施する組織など、演劇や、音楽、美術、エンターテインメント、そして教育、と幅広い分野の方々から取り組みを聞きました。どんな困難と向かい合い、歩みを止めなかったのか。神奈川県内での5つの現場の声をお届けします。
- コロナ禍でのあゆみ ―5つの現場から―
- 1.『未練の幽霊と怪物—「挫波」「敦賀」—』岡田利規インタビュー
- 2.テレビ神奈川(tvk)
- 3.ヨコハマトリエンナーレ2020
- 4.神奈川フィルハーモニー管弦楽団
- 5.神奈川県立湘南高等学校合唱部
VOICE 4
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
神奈川フィルハーモニー管弦楽団にとって2020年は創立50周年のアニバーサリーイヤーでした。しかし2020年3月6日・8日に予定されていた定期演奏会は中止となり、また常任指揮者・川瀬賢太郎さんのたっての希望で計画していた「マーラー/交響曲第8番『千人の交響曲』」の演奏会は、合唱の練習が不可能になり、舞台上のソーシャルディスタンス確保が困難であることから、実施がかないませんでした。収容人数制限がありながらも定期演奏会が再開できたのは2020年8月のことでした。生演奏を披露する機会を奪われながらも、公式YouTubeチャンネルを活用して楽団員の生の声や演奏を届ける取り組みを活発に行って、ファン層の拡大に結びつけるといった思わぬ効果もあったそうです。同管弦楽団営業部広報の田賀浩一朗さんにお伺いしました。
聞き手・文 : 猪上杉子
―2020年8月にお客様を迎えての演奏会を再開できた時はどのように感じましたか?
定期演奏会を再開すべきかどうか葛藤もありましたが、終演後に半数の客席からいただいた拍手がまるで満員の会場のように大きく聞こえ、感激しました。生演奏がもたらす感動がわきあがる様子に、どんなに感染対策の準備が大変でも「生の音楽を届け続けなければならない」と感じました。
―コロナ禍で新しく始めたことはありますか?
2020年3月に定期演奏会の中止が決まった時に楽団員のなかから「動画配信で音楽を届けたい」と声が上がり、スタッフも賛同して、練習場であるかながわアートホールで室内楽を収録しました。「デリバリー・コンサート」と題して、演奏の合間などにはオーケストラの現状を伝える楽団員やスタッフの声も交え、公式YouTubeで配信したところ、大きな反響をいただきました。この1年半あまりで60本近くの動画を配信し、6千人の登録者数となり、3万回を超える再生回数を得た動画もあります。遠方にお住まいの方や、これまでオーケストラを聴いたことがなかった層にもファンが広がったと実感しています。
―コロナ禍を経験して、オーケストラや音楽の果たす役割は変わりましたか?
2011年の東日本大震災の時も、今回も、音楽の重要性をより強く感じたと思います。音楽を通じて心がより豊かになることを、幅広い世代にも感じてもらえる機会を増やしていきたいです。
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
1970年に発足。2020年に創立50周年を迎えた。神奈川県内を中心に演奏活動を続け、質の高い演奏と地域に根づいた活動で支持を拡大。音楽堂と県民ホールで定期演奏会を開催するほか、学校や地域で年間約150回以上の演奏会を開いている。2022年4月に沼尻竜典が音楽監督に就任する。
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