このコーナーでは「舞台裏」で公演を支えるスタッフの「技術」をお伝えしていきます。初回となる今回は2020年初演の『アルトゥロ・ウイの興隆』(2021年11月〜2022年1月再演)で衣装を担い、KAAT製作のほかの演目でも数多くの衣装を手がける伊藤佐智子さんにお話を伺いました。
聞き手・文 : 山﨑健太
—伊藤さんにとって衣装デザインとはどのような仕事ですか。
衣装デザインというのはキャラクターデザインでもあります。身体にフィットしたジャケットではなく、ボタンが弾け飛びそうにパツパツなジャケットが表すキャラクターというのもあります。舞台衣装は着こなしも含めてデザインするもの。役者が役のことを考えるスタート地点になるという意味でも衣装は重要です。
なので、私にとっての衣装の仕事は、実際に役者に会うところから始まります。まず台本を読んで演出家と話をして、という最初のステップはあるんですが、役者の動きや表情を見ることが何より重要。稽古場で立ち昇ってくるものから具体的なイメージをスケッチしていきます。
—『アルトゥロ・ウイの興隆』では赤のアンサンブルが印象的でした。
百年たっても原作者のベルトルト・ブレヒトの存在感は圧倒的で作品全体を通した色の配置や変化は時代を越えて重要な要素です。演出の白井晃さんから「赤を使いたい」とお話があり、私も赤はぴったりだと思いましたが、赤一色だと全体が平板になってしまう。それで、赤がより挑発的に見えるように、色相が少しずつ違う赤で構成しました。素材や染料、照明との組み合わせによって色が違って見えるのも衣装の面白いところですね。
—舞台衣装の仕事の面白さは?
舞台以外の仕事もしますけれど、人対人の仕事だという点では変わりません。けれど舞台が自分の居場所として呼吸できると感じます。舞台をつくる時の人との距離感が性に合っているんです。衣装は舞台で役者に一番近いところにあるもの。これからも彼らに寄り添い支えるような仕事をしていきたいです。
衣装デザイナー
伊藤佐智子[いとう・さちこ]
ファッション クリエイター。映画、演劇、そして時代の流れを象徴する広告の中で、一点ものにこだわった衣装を提案。衣装はもとより、1枚の布からはじまる様々な表現を、ジャンルを越えてクリエイションする。東京2020パラリンピック開会式衣装ディレクター。