聞き手・文 : 猪上杉子
2021年春、神奈川県民ホールは、クラシック音楽の新シリーズ「C×(シー・バイ)」をスタートしました。Composer、Classic、Contemporary—様々な「C」を掛け合わせる試みから、今回は、過去の偉大な作曲家(Composer)と、今を生きる気鋭の作曲家(Composer)が交錯する「C×C(シー・バイ・シー) 作曲家が作曲家を訪ねる旅」を紹介します。
シリーズの第1回「山本裕之×武満徹」が開催されたのは2021年11月6日。現代の音楽シーンに欠かせない作曲家の一人、山本裕之さんの4曲と、没後25年の20世紀の日本を代表する作曲家・武満徹の4曲が交互に、若手を中心とした実力派の演奏家たちによって演奏されました。山本さんの1曲は神奈川県民ホールが委嘱した『横浜舞曲』の初演でした。
「武満徹を訪ねた旅」はどのようなものだったのか、山本さんにお聞きしました。
「偉大すぎる武満と並べられると聞いた当初は自分との接点が見つけられるだろうかとすら思いました。初期から中期の作品を選んだのは、今の私の年齢よりも若い武満のことを深く知りたかったから。スコア(楽譜)を読むと、ふわりとした曖昧な音響を書く作曲家の印象が変わり、音に対して厳密な姿勢と、自分だけの音楽をつくろうとする強い意志が見えてきました。そうした武満に呼応して私が『横浜舞曲』を書くにあたっては、武満の使用したハープの特殊調律を流用しました。フォーマットに共通性を持たせたことで、武満と私の違いが現れるだろうと期待して。演奏家たちの反応も加味されて、とても面白い試みができたと思います。」
「C×C」の第2回「川上統×サン=サーンス」は 2022年1月8日に催され、川上さんの委嘱新作が、没後 100年を迎えるサン=サーンスの『動物の謝肉祭』と交差しました。今後、様々なかたちで展開される「C×シリーズ」で音楽の冒険が楽しめそうです。
山本裕之[やまもと・ひろゆき]
1967年生まれ。作曲家。作品は日本、ヨーロッパ、北米等を中心に演奏されている。演奏家や音楽団体などから委嘱を受けて楽曲を提供する一方で、コンサートの企画運営など様々な活動を展開している。武満徹作曲賞第1位(2002)、第13回芥川作曲賞(2003)、第51回神奈川文化賞未来賞(2002)などを受賞。愛知県立芸術大学教授。
武満徹(1930-1996)はどんな作曲家?
主に独学で作曲を学ぶ。『弦楽のためのレクイエム』(1957)がストラヴィンスキーに絶賛され、一躍世界に名が知れわたる。『ノヴェンバー・ステップス』(1967)も代表的作品の一つ。黒澤明、タルコフスキーなど映画との関わりも深い。